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最高裁判所第一小法廷 平成5年(オ)342号 判決

上告人

冨川英太郎

上告人

冨川美智子

右両名訴訟代理人弁護士

小島衛

被上告人

冨川キヨ子

右訴訟代理人弁護士

鎌田哲成

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

1  上告人らの主位的請求を棄却する。

2  被上告人は、上告冨川英太郎に対し、被上告人が同上告人に対して二四一万四七五〇円を支払わなかったときは、原判決添付物件目録記載の土地の持分各四〇分の一について、平成元年七月三一日遺留分減殺を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

3  被上告人は、上告人冨川美智子に対し、被上告人が同上告人に対して二四一万四七五〇円を支払わなかったときは、原判決添付物件目録記載の土地の持分各四〇分の一について、平成元年七月三一日遺留分減殺を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

4  上告人らの予備的請求のうちその余の部分を棄却する。

二  訴訟の総費用はこれを二分し、その一を上告人らの負担とし、その余を被上告人の負担とする。

理由

一  上告代理人小島衛の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

二  予備的請求について職権をもって検討する。

1  上告人らの予備的請求は、上告人らが受遺者である被上告人に対して遺留分減殺請求権を行使したことにより上告人らに帰属した原判決添付物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)の持分各四〇分の一についての移転登記手続を求めるものである。被上告人は、原審口頭弁論期日において裁判所が定めた価額により民法一〇四一条の規定に基づく価額の弁償をする旨の意思表示をした。

2  原審の適法に確定したところによれば、(一)冨川矢一は、全財産を被上告人に遺贈する旨の遺言をした後、平成元年四月二一日に死亡した、(二)上告人らは矢一の子であり、その相続分はいずれも十分の一である、(三)矢一の遺産である本件土地の持分二分の一につき、本件遺言に基づき、被上告人に対する所有権移転登記がされた、(四)上告人らは、同年七月、被上告人に対して遺留分減殺請求権を行使する旨の意思表示をした、(五)右遺留分減殺の結果、上告人らは、いずれも、本件土地について持分四〇分の一を取得した、(六)原審口頭弁論終結時における本件土地の持分四〇分の一の価額は二四一万四七五〇円である、というのである。

3  原審は、右事実関係の下において、上告人らの予備的請求は理由があるが、被上告人が上告人らの取得した本件土地の持分各四〇分の一の価額としてそれぞれ二四一万四七五〇円を支払ったときはその登記手続を免れることとなるとして、予備的請求については、「被上告人は、上告人ら各自に対し、本件土地の持分各四〇分の一ずつについて所有権移転登記手続をせよ。被上告人は、上告人ら各自に対し、前項の各持分権の代価として各二四一万四七五〇円を支払うときは、同項の登記手続義務を免れることができる。上告人らのその余の請求を棄却する。」という趣旨の主文の判決を言い渡した。

4  しかしながら、減殺請求をした遺留分権利者が遺贈の目的物の返還を求める訴訟の事実審口頭弁論終結前において、受遺者が、裁判所が定めた価額により民法一〇四一条の規定に基づく価額の弁償をする旨の意思表示をした場合には、裁判所は、右訴訟の事実審口頭弁論終結時を算定の基準時として弁償すべき額を定めた上、受遺者が右の額を支払わなかったことを条件として、遺留分権利者の目的物返還請求を認容すべきである(最高裁平成六年(オ)第一七四六号同九年二月二五日第三小法廷判決・民集五一巻二号登載予定参照)。

これを本件についてみるに、受遺者である被上告人は原審口頭弁論期日において右の趣旨の意思表示をしており、上告人らが遺留分減殺により取得した本件土地の持分各四〇分の一の原審口頭弁論終結時における価額は各二四一万四七五〇円であるから、被上告人が上告人らにそれぞれ右の額を支払わなかったことを条件として、上告人らの移転登記手続請求を認容すべきである。以上と異なる限度において原判決には法令の解釈適用を誤った違法があり、この違法が判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、原判決は破棄を免れず、右に説示したところに従い原判決を主文のとおり変更することとする。

よって、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条、九六条、八九条、九二条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官高橋久子 裁判官小野幹雄 裁判官遠藤光男 裁判官井嶋一友 裁判宮藤井正雄)

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